発達性トラウマ障害だからか。複雑性PTSDでは解明できなかった謎が解けた。
ずっと分からなかったことがある。
なぜ、私と同じように幼少期に性被害を受けた人の中で、あの人はそれをバネにして人生を切り開き、生きているのか。
性被害の深刻さを客観的にみても、あの人の方が悲惨に思えるのに。
あの人も、あの人も、あの人も──生き延びるだけでなく、人生を謳歌しているようにも見える。
訴訟を起こしたり、本を出版したり、法律を変えたりしている人もいる。
私だって一生懸命に生きようとしているのに、全てが裏目に出てしまう。自分の人生とは思えたことなんてない。
でも、薄々気づいてもいた。
あの人は私より性被害を受けた年齢が、数年遅かった。
何歳かという認識があるだけでも、世界の見え方は全然違うだろう。
あの人は母親が味方になってくれていた。
味方になってくれる人が1人でもいたら、視界は変わるだろう。
ここでいう「あの人」は特定の個人ではなく、幼少期から性被害を受けた経験を持ちながら、社会に訴えかけ、意識を変えてきた大勢の人々を指している。
一方で、私のように非常に幼い頃から性被害を受けた人を調べると、解離性同一性障害(DID)の人が圧倒的に多い。その中には、小児性偏執者や連続殺 人犯も少なくない。
被害をバネにできる前に、折れてしまい、加害者になってしまう人ばかり。加害者になっていない僅かな人の隣には、味方が必ずいた。
「発達性トラウマ障害」という概念を知り、やっと自分を的確に説明してくれる言葉に出会ったという安堵感と、道理で自分の人生が全く思うようにいかないのかという納得が、同時に訪れた。
結局、私みたいな生い立ちで、人生が上手くいく方がおかしいのに、私は健常者と同じ感覚で生きようとしてきた。土台が違うのに。
途中から自分は複雑性PTSDなんだと思っていた。
でも、上に書いたような頃は、複雑性PTSDだけでは説明がつかなかった。
そこで、発達性トラウマ障害(DTD)という概念と、複雑性PTSD(CPTSD)との違いを改めて比較してみる。
両者には大きな重なりがあるが、焦点と成り立ちの経緯に根本的な違いがある。
1. トラウマの起源と発生時期
- CPTSD
- 数か月から数年にわたる長期的・反復的なトラウマの後、あらゆる年齢で発症する可能性がある。
- 例:成人期の家庭内暴力、監禁、戦争、カルト関与、長期的な職場での虐待。
- トラウマは幼少期または成人期のどちらからでも始まる。
- DTD
- 必ず幼少期に始まり、多くは10歳未満、しばしば5歳未満。
- 発達期における慢性的な対人トラウマ(ネグレクト、養育者からの虐待、愛着の断絶、暴力への反復曝露)を伴う。
- トラウマは、感情・認知・人間関係スキルの構築期に影響を与える。
2. 主な症状群
- CPTSD(ICD-11による)
- PTSDの全症状(侵入症状、回避、過覚醒)
- 自己組織化の障害(DSO):
- 感情調整の困難
- 否定的な自己概念
- 対人関係の困難
- DTD(ヴァン・デア・コルクの提案による基準)
- 感情調整の問題(怒りの爆発、シャットダウン、感覚麻痺、極端な感情の起伏)
- 注意・意識の問題(解離、断片化された記憶)
- 自己認識の歪み(恥、自己非難)
- 愛着・人間関係の崩れ(不信感、親密さへの恐怖、過度または不足した依存)
- 生理的調整の問題(睡眠、食欲、ストレス反応)
- 行動コントロールの問題(自傷、攻撃性、危険行動)
- 認知・意味づけの障害(絶望感、歪んだ信念)
3. 発達への影響
- CPTSD
- アイデンティティや人間関係を損なう可能性はあるが、すでにある程度発達した人格構造の上に影響する場合が多い。
- トラウマ以前に、安定した発達期間を持つことがある。
- DTD
- アイデンティティ、愛着スタイル、感情調整の形成そのものを基礎から形づくる。
- トラウマが人格、身体の調整機能、世界観の基盤構造そのものに織り込まれる。
4. 臨床・治療への示唆
- CPTSD
- 慎重なペース配分で行うトラウマ焦点型療法(例:EMDR、身体志向療法、パーツワーク)に反応しやすい。
- 愛着修復も必要だが、トラウマ以前に培った内的資源が比較的多い場合がある。
- DTD
- トラウマ処理と同じくらい発達的修復が必要。
- 直接的なトラウマ処理の前に、長期的・愛着重視・多面的なアプローチが必要になることが多い。
- 安全確保、関係性の信頼構築、調整スキルの習得、その後に段階的な記憶統合といった介入が組み合わされる。
🔹 まとめると:
CPTSD = どの年齢でも起こりうる長期的トラウマで、すでにある自分を変える。
DTD = 生まれつきの発達段階からのトラウマで、どんな自分になるかを形づくる。
CPTSD と DTD の比較表
特徴 | CPTSD(複雑性PTSD) | DTD(発達性トラウマ障害) |
---|---|---|
トラウマ開始時期 | どの年齢でも(幼少期〜成人期) | 幼少期のみ(多くは10歳未満、しばしば5歳未満) |
トラウマの種類 | 長期的・反復的な対人トラウマ | 慢性的な対人トラウマ + 養育や愛着の崩壊 |
発達段階への影響時期 | ある程度の発達段階を経た後に受ける | アイデンティティ・感情調整・愛着形成の基礎構築期に受ける |
主な症状の焦点 | PTSD症状+自己組織化の障害(感情調整不全、否定的自己概念、人間関係の問題) | 感情調整・注意力・愛着・生理機能・行動・認知など広範囲の発達的影響 |
愛着への影響 | 既存の愛着パターンが損なわれる | 愛着スタイルそのものが最初から歪められる |
治療の優先順位 | ペースを守ったトラウマ処理 | トラウマ処理の前に発達的修復と愛着修復 |
定義の由来 | ICD-11 公式診断 | ベッセル・ヴァン・デア・コルクによる提案、DSM/ICDでは未承認 |
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