児童性虐待(CSA)啓蒙映画『ミステリアス・スキン(謎めいた肌)』他

CSA啓発

今話題の映画『国宝』を観てきました。劇場でこそ味わうべく映像美と俳優陣の演技力で、「世襲か才能か」という「生まれか育ちか」に通じる普遍的な議論が表現されていた……けれど、歌舞伎そのものの魅力が分かったとは、やっぱり言えないままでいる。

特に冒頭から気になってしまったのは、「風紀が乱れるために女性を禁じた」という趣旨の文章。レイプカルチャーとも地続きのように感じられる歌舞伎の根本的な前提に一切の疑問が向けられることなく、あくまで”伝統”、当然のものとして物語が進んでいった。

そのため、私には感情移入の糸口を見つけるのが難しく、終始どこか置いてけぼりのまま、距離を感じながら観ていました。

『国宝』ほど話題になることはないかもしれない。けれど、私にとって圧倒的に重要だと感じる映画やドキュメンタリーが沢山あります。

それらの作品に描かれるのは、児童性的虐待(CSA)の被害に遭った人々──性犯罪という“風紀の乱れ”の犠牲者であるにもかかわらず、責任転嫁されたまま、人知れず生き伸びてきた人々の姿。

『国宝』の冒頭から排除されていた側の人たちと言えるかもしれない。

私が魂を揺さぶられる作品はどれも、キレイゴトで誤魔化さず、真正面から残酷な現実を見つめている。

あまりにも痛ましく、直視するのが苦しい場面もある。それでも観終えた後には「もっと多くの人に観てもらいたい」と心から思う。

けれど社会の現状を考えると、精神的なダメージも決して小さくなく、その感想を満足に言語化することが、今の私には難しい。

だからここでは簡単に紹介するだけに止めておこうと思う。

Mysterious Skin /謎めいた肌 (2004)

あらすじ

ミステリアス・スキン』は男の野球コーチから性加害を受けた8歳の少年2人のその後の人生を描いた同名小説が原作の映画。

ニールは、母親がベッドの下に隠していた成人雑誌『プレイガール』の影響で、年上男性に恋愛感情を抱いており、コーチに一目惚れ。憧れのコーチからグルーミング(性犯罪に及ぶために獲物を手なづけ信頼関係を築く行為)され、徐々に性行為に誘導される。

一方、鼻血を出しながら地下室にいたところを姉に見つかったブライアンは、性被害の記憶を失っていた。その日から鼻血や意識喪失や悪夢が続く。青い手に触られているという悪夢を繰り返し見たことで、宇宙人に拐われたのだと信じ込む。

ニールは15歳になった頃から男娼になる。明るい性格だが、客から暴行を受けた上にわずか50ドルしか支払われなかったり、性病にかかったり、血が出るほどの殴られるシーンなどがあり、危険な職業で身を削っている様子が伺える。

ブライアンは、悪夢に出てくるようになっていたニールを探し出し、記憶を失った夜の手がかりを得ようとする。コーチにさせられたことをニールから聞かされ、二人は身を寄せ合いながら、2度と戻らない子ども時代と消えてしまいたいほどの悲しみに浸る……。

私の感想

他人から勝手に身体を触られることや、触らせられることへの恐怖体験が、記憶や意識を失うことでしか脳が処理できないほどのトラウマとして描かれているのがリアルだ。

子どもに性行為をしても「まだ幼いから分からないだろう」と勘違い・言い訳する大人が多い。ブライアンはトラウマ症状を発症していたものの、身に起きたことを理解するどころか、思い出すことも困難だった。でも思春期という性的に多感な時期になっても、性的な接触を「拒絶」するという新たなトラウマ反応が発症。性に関連することを「恐怖」として潜在意識が処理し続けていることを明白にした。

ブライアンのように性被害に不快感を覚える場合と、ニールのように快感を覚える場合がある。しかし快感を覚えたとしても、性加害が無害になると正当化できない

ハロウィンの夜、ニールが他の男子の口に花火を入れて怪我を負わせた後、相手を慰めるために自分がコーチにされたことを反復して周囲にも混乱を招いた。子どもへの性行為(他人の口や性器を自分勝手にしても良いと教えること)がその子の倫理観に悪影響を及ぼすことが描かれている。

一方、ニールは男娼として幾度も命の危険が及ぼされる目にあっている。お金を払えば他人の体をどうにでもして良いと勘違いする性犯罪者マインドの客を相手にして、自分の心身の健康や命が尊重されるわけがない。

このように子どもへの性的な接触よる違和感や恐怖心、不快感や快感など、状況によって子どもの感じ方は多様であっても、一律に害を与えると考えられる。

子どもの未経験や未熟さはすなわち、自分の様々な感情や感覚、自身や他人との付き合い方をゆっくり学んでいく機会が無限にあるということだ。自分の趣味や特技で、自立する方法も探っていく過程にある。

早い段階で、性行為という刺激が極めて強い経験を先に覚えさせらると、ブライアンのように押し殺し、訳もわからないまま、生きにくさに苛まれながら気が狂う。あるいは、ニールのように性に依存して自暴自棄になるパターンもある。実際には二人のハイブリッドのようなケースが多い。

「性犯罪=魂の殺人」

性犯罪はこれほど人の人生を狂わすのに、加害者が罪に問われることが少ない。問われたとしても、刑が軽すぎる。刑務所で、性犯罪者の更生プログラムも遅れていて、再犯率が90パーセント以上と分かっているのに、再び社会に野放しにする絶望的なシステム。

腐り切った構造の中で子どもが、自分より力のある者から性的に搾取された時に自分を責めてしまわないように、ちょっとした違和感をも自己肯定し、言葉でも認識できるように、自他の境界線を尊重し「NO」が言える性教育を大人が学ことが重要。なのに、その浸透はポルノ文化より遥かに遅れている。

挙げ始めたらキリがないほど、この社会は性犯罪者に甘く、被害者に厳しい。自殺者が多いのも納得の社会。

私は自殺や他殺などあらゆる社会問題の根底に児童虐待が潜んでいるのではないかと思わざるを得ない。

年代別の死因順位をみると、15~39歳の各年代の死因の第1位は自殺となっています。男女別にみると、男性では10~44歳において死因順位の第1位が自殺となっており、女性でも15~34歳で死因の第1位が自殺となっています。

自殺の実態 自殺対策概要 厚生労働大臣指定法人・一般社団法人

先進国で減り続けている出産率も、発展途上国で増え続けている出産率も、共通分母は「経済目的や支配欲=大人の身勝手で悪戯に増やされ命の人権は二の次」。だから日本では授かった命さえ活かせていないのに、経済支援で子供を増やそうとしている。

ハッピーエンドが好きな向けに楽観的な視点を加味するとしたら、このまま人類が順調に自滅に向かうなら、それほど地球にとってSDGsなことはないだろう、と思えてくること。しかも宇宙規模で考えたら、地球滅亡自体、些細なことなのだろうということ。

人間が傲慢になり過ぎたことへの自業自得と考えると、生きてるだけで苦しいのは当たり前なのかな、と。

結論として、私は自分でも嫌になってしまう状況を言語化しないと、気持ち悪さで圧迫されるため、たった1人でいいので共感を密かに求めながら公開したり、次第に自分の卑屈さが恥ずかしくなって下書きに戻したりすることで日々を繋いでいる。

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https://sundae-films.com/mysterious-skin/

This is Paris(2020)

パリス・ヒルトンが16歳の時、真夜中の寝室に手錠を持った男2人が侵入し、ベッドから引き剥がされて連れて行かれるのを、両親がドアの隙間から見ていた。

これは夜な夜な見ていた悪夢であるだけでなく、実際に起きた出来事だった。そのまま、あらゆる虐待を強いる寮生の学校(ユタ州にあるプロボ・キャニオン)に連れて行かれた。

キラキラした世界で活躍する姿からは想像もできないトラウマ体験は、人知れずパリスの人生に悪影響を与えてきた。

パリスは沈黙を破ることで、アメリカの複数の州で法律を変えることに成功している。その一方で、両親は娘を強制連行させた責任と向き合おうとしない。そこに一番の問題が潜んでいる。

Paris in Love (2021-2023)

ドキュメンタリー「This is Paris」の続編で、パリスの結婚前から第一子を代理出産した後までが2シーズンにわたって収録されている。

結婚相手のカーターは一見優しそうな男性だが、パリスの不安な気持ちに無頓着で、彼女の行動や気持ちを自分勝手に操作しようとするが、パリスはそれに気づいていない様子。

コントロールという意味では母親が最も厄介だ。母親はパリスの結婚式なのに「私の結婚式でもある」と主張し、招待する人を勝手に決めたり、座席表などを直前に変更したりして常に主導権を握ろうとする。

一方で、パリスが学校で虐待を受けていたと告白するドキュメンタリー「This is Paris」を見てほしいと願っても拒否。コメントを求められると母親は「実態を知っていたら、通わせていなかったわ。分かっているわよね」と言って、パリスを黙らせ、責任逃れしようとする。

パリスも母親もセラピーを数回受けながら、難しい対話を少しづつできるようになっていくが、まだ表面的な会話に留まっている感が否めない。

私はこのシリーズを見て、パリスには2人目の弟がいることに気づいた。妹のニッキーとは頻繁に連絡を取り合っているし、バロンとも仲が良いのは明らかだ。問題は次男のコンラッド。パリスがフェニックスをお披露目する際に一瞬だけ登場するのだが、それまで彼のことを誰も話題にさえしていない。

調べるとこのコンラッド、パリス以上の問題児。ガールフレンドに暴行をしたなどとして何度か警察沙汰になっていて、職業不詳。

家族や親族が全員有名人で、何者でもないコンラッドはさぞ肩身が狭く、居場所がないと感じてきたのだろうと想像する。だからと言って暴行をすることは許されないが、そのような犯罪に走ったのも、パリスがされてきた以上に家族から蔑ろにされてきたことが原因になっているのではないかと思わざるを得ない。

隠しきれない、ヒルトン一族の深い闇が垣間見え、ゾッとした。

経済力で人の価値を測る風習は、ヒルトン一家だけではない。

パリスは知名度があるから、自身の経験を多くの人に知らしめることができるが、彼女たちが住んでいるロサンジェルスのビバリーヒルズから約30キロしか離れていないところにはアメリカ最大規模のスラム街「スキッド・ロウ」がある。そこには、地位も名誉もなく、犯罪と虐待しかない日々の中でテント生活しているギャングや娼婦などを含む精神障害者及びホームレスが密集している。

この世の中は、どれほど酷い目に遭わされてきたかよりも、どれほどの権力があるかによってその声の届く範囲が決まってしまう。

その矛盾や残酷さを踏まえた上で、各々それぞれの持ち場で声を上げていくしかない。

ちなみに写真家のマーク・ライタのYouTubeチャンネル「Soft White Underbelly」では、スキッド・ロウをはじめ社会の底辺にいる人々の人生を毎日のようにインタビューしスポットライトを当てている。

街録Ch」のアメリカ版と言えば伝わるだろうか。

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The Menendez Brothers(2024)

裕福な家庭で生まれ育った兄弟が両親を殺害した後、豪遊したため、財産のために殺害した容疑をかけられる。

しかし事件が深掘りされると、兄弟が父親から性被害を受けていたことが明らかになる。

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Rewind (2019)

男の子が伯父から性被害を受けていたということをファミリービデオを通じて語るドキュメンタリー。

Rewind Documentary
Rewind is a groundbreaking documentary film that explores the far-reaching consequences of multigenerational child sexua...

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Abducted in Plain Sight/白昼の誘拐劇(2017)

家族と仲良かった男性が娘を2度に渡って誘拐し、性加害をし続けた。

娘は長らくグルーミング・洗脳されていた。

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Tell Me Who I am/本当の僕を教えて(2019)

ネットフリックスのドキュメンタリー『本当の僕を教えて』(2019)は、記憶喪失、双子、機能不全家族、毒親、トラウマ、幼児性虐待、小児性虐待(ペドファイル)などがテーマの映画です。

記憶喪失になった双子の兄弟アレックスに思い出話を聞かせるマーカスには、隠しておきたい暗く悲しい家族の秘密があった。」

Watch Tell Me Who I Am | Netflix Official Site
In this documentary, Alex trusts his twin, Marcus, to tell him about his past after he loses his memory. But Marcus is h...

May December/メイ・ディセンバー ゆれる真実 (2024)

未成年の生徒と性行為を行い、児童レイプの罪で懲役7年の刑を受けたアメリカの元女性教師メアリー・ケイ・ルトーノー(Mary Kay Letourneau)をモチーフにした映画。

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