『性被害者失格』

回顧録

作/犯免狂子

序章

こそばゆい感覚で目が覚めると、手がパンツの中で動いていた。

真暗闇の中でその手は、右側で寝ているはずのお父さんから伸びていた。

寝ぼけてるのかな。それともお母さんと勘違いしてるのかな。でもお母さんのそこには毛が生えている。やっぱり寝ぼけてるんだ、と思い直した。

それなら手を振り払えばいい、と寝返りを打つように、左側で寝ていた母の方を向いた。

するとその手はパンツの真後ろを握り締めた。

……!? 

体と思考が一瞬、硬直した。起きてる?寝てない?なんで?お母さんは寝てる。次の瞬間、その場に居ても立ってもいられなくなり、なるべく素早く、でも誰も起こさないよう、なるべく静かにするよう気をつけながら、どうにかベッドから抜け出し、トイレに駆け込み、便器のレバーを押し、流れる水の音量に焦った。

自分の寝室のベッドに入り、トイレを使うために起きたんだ、そう考えながら、眠りについた……はず。

翌朝「お父さんにメゴメゴしてもらったんだって?よかったねぇ」と母親から言われながら、ギュッと抱き寄せられた。

……。

第一章

彼との出逢い

彼と出逢ったのは、かつて秋葉原にあったバックパッカーズゲストハウスという名のシェアハウス。

私は当時、四谷にある大学に通う勤労学生だったので「3万円 シェアハウス」で検索してヒットした物件の一つだった。

それまでは祖母が住んでいた葛飾区の一軒家や、千葉県松戸にあったシェアハウスに住んでいたこともあったけど、人間関係に問題が生じる度に引っ越した。

本当は中央線の西側に住みたかったけど、親切にしてもらっていた柴又にある蕎麦屋でバイトを続けるために秋葉原で妥協。

そこは古い5階建の雑居ビルで、2階が女子限定で二段ベッドが4台あったので、私は窓際にあった上段を陣取った。Mさんという膨よかな女性1人先に住んでいて、出会い系のサクラをしていると言っていた。

オーナーは沖縄出身のKさんという気さくな男性で、1階でカレー屋も経営していた。住人もほとんど男性でフレンドリーな印象だけど、恋愛対象にはなる人はいないそうだなと一瞬で悟った。土地柄もあり、アニメやゲームや漫画が好きなインドアな人が多かったからかもしれない。

社会人から学生からニートまで色んな人がいて、外国籍の人は少数だけどアメリカ人と韓国人がいた。一緒に暮らしている分、一人一人の個性を感じやすく、入れ替わりの多さも良い刺激だった。女子部屋にも住人が増え、ほぼ満員になった。大学では仲の良い人がいなかった私も、家に帰れば毎日が楽しかった。

住んでから2年が経った春先、学校から帰宅すると、2階と3階の間にある踊り場でスーツ姿の男性がタバコを吸っていた。新しく引っ越して来たRの職業はメンキャバのホスト。夜の世界に憧れがあった私はホストと仲良くなれることにワクワクしつつ、チャラ男と即認定し恋愛対象からは除外していた。なのでその後、関係が急速に深まるとはその時はまだ想像もしていなかった。

つづく

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